ワクチン・予防

感染症予防について

猫ちゃんやワンちゃんおいて、生命を脅かすような危険な感染症は、決して過去のものではありません。
幸いなことに、ワクチン接種や投薬によって、一部の重篤な感染症は、その感染/発症リスクを大きく抑えることができます。
感染症によっては、ペットから人へ感染するものもあり、人と動物、両方の健康を守る上でも、予防は重要です。
言い換えれば、感染症予防をきちんと行うことは、ペットの命を守るために重要なケアであると同時に、ペットを飼育する上での飼い主さまの責務でもあります。

一方で、猫ちゃんやワンちゃんのライフスタイルやライフステージなどによって、必要なものや方法をセレクトして実施していくことも可能です。まずはご相談ください。
当院では、エビデンス(科学的根拠)に基づいた感染症予防に取り組んでいます。

ワクチン

ワクチン接種は、特定の感染症への免疫を獲得することを目的に実施します。
免疫を獲得することで、その病原体が体内に侵入したとしても、病気にかかりにくくなる、または発症しても重症化しにくくなる、といった効果があります。
結果的に、ペット同士で病気が伝染したり、ペットから人間に病気が感染することを防ぐことができます。

狂犬病ワクチン

狂犬病とは、狂犬病ウイルスによる感染症で、ワンちゃんだけでなく人を含む全ての哺乳類に感染し、発症すればほぼ100%の動物が死亡します。発症した場合の治療法は確立されておらず、発症前のワクチン接種が唯一の有効策となっています。
幸いにも日本では、狂犬病予防法のもと感染対策が徹底されたことにより、1957年以降に国内感染例はありません。しかし海外では現在も狂犬病によって毎年たくさんの人が命を落としており、この病気が再び日本で蔓延する可能性は十分にあるのです。
ワンちゃんへの狂犬病ワクチン接種は必ず行いましょう。

なぜワンちゃんだけに狂犬病ワクチン接種が義務付けられているの?

すでに述べたように、狂犬病はすべての哺乳類が感染する感染症ですが、日本国内で飼育されている動物の中で、ワクチン接種が義務付けられているのは犬だけです。
これは狂犬病が、主に感染した犬の咬傷によって、人に感染するとされるためです。ただしこれには地域差があり、特にアジアでは犬に由来する例が多いとされています。狂犬病を媒介する主な動物としては、犬以外にも、コウモリやキツネ、アライグマ、マングースなどが知られています。
また一方で、海外から日本へ動物を持ち込む際には、ワンちゃん以外の動物(猫、アライグマ、狐、スカンク)も狂犬病予防法の規制対象になり、ワクチン接種や感染していないことの証明が必要になります(これについて詳しくは動物検疫所のホームページをご覧ください)。

接種するタイミング

狂犬病ワクチンは、法律で年に1回の接種が飼い主さまに義務付けられています。初回のワクチンは生後3ヵ月を経過するタイミングで行います。ワンちゃんの健康上の安全から、混合ワクチンを接種した場合は、接種後から1ヵ月以上の間隔を空けることが必要です。
初回のワクチン接種後は、毎年4月~6月ごろの狂犬病予防接種期間に合わせて接種するようにしましょう。

市町村への登録済みの成犬

成犬の場合は、1年に1回予防注射を受けていただきます。
4月~6月が一般的な予防接種期間となっていますが、1年を通して予防接種を実施することは可能ですので、お気軽にお越しください。

未登録の成犬

成犬は1年に1回の狂犬病ワクチンの接種が必要です。毎年4月~6月は予防接種期間になり、各地域で集合注射も開催されていますが、当院では1年を通して予防接種を受け付けておりますので、ご希望の場合はご相談ください。
予防接種と同時に市区町村への登録を行います。

混合ワクチン

混合ワクチンは1回の接種で、複数の感染症に対する予防効果が期待できます。
初回の混合ワクチン接種は生後2ヵ月前後の頃にスタートし、間隔を空けながら2~3回の接種が必要です。その後は年に1回の追加接種を行うのが一般的です。
ワクチンで予防できる病気のなかには、感染によって死亡する致死率の高い感染症も含まれています。大切な猫ちゃんやワンちゃんの健康を守るためにも、ワクチンの定期的な接種をご検討ください。最近では宿泊施設、ペットホテルやトリミングサロンでも、ワクチン接種の証明書の提出が求められるケースが増えておりますので、施設を利用する前はできるだけ確認するように心がけましょう。
動物病院によって、取り扱いのある混合ワクチンが異なる場合がありますので、詳しい内容はお気軽にお問い合わせください。

駆虫薬による感染症予防

フィラリア症

フィラリア症は、蚊の媒介により感染する寄生虫疾患です。現在、日本国内では「フィラリア症」といえば、犬糸状虫(Dirofilaria immitis)という寄生虫によって引き起こされる「犬の感染症」として広く認知されていますが、海外では別種のフィラリアも分布しており、人が感染するものもあります。ここではフィラリア症の中でも、日本で一般的な犬糸状虫症についてご説明します。

この病気では、フィラリア虫体が、心臓や肺動脈に寄生することで、心臓・肺・肝臓や腎臓への障害など、さまざまな症状を引き起こします。
犬に感染した直後は無症状のことが多く、症状が現れる頃には手遅れということも少なくありません。薬による治療、手術で心臓から除去するといった方法がありますが、どちらも高いリスクを伴うため、感染を予防することが重要になります。

猫ちゃんのフィラリア症

上述のように、国内で「フィラリア症」といえばワンちゃんの病気として有名ですが、実はワンちゃんに比べたら少ないながらも、同じ寄生虫が猫ちゃんに感染してしまうことがあります。
ワンちゃんではフィラリアの成虫が主な症状を引き起こすことから、感染初期の子虫の段階では無症状のことが多いですが、猫ちゃんではワンちゃんよりも血管が細いために、子虫のうちから肺動脈で塞栓を起こし、咳や喘息などの呼吸器症状を起こすことが知られています。また、猫ちゃんではフィラリア感染により突然死するリスクもあると言われています。
完全室内飼育の猫ちゃんであっても、蚊に刺されることを完全に防ぐことはできませんので、フィラリア症の予防をおすすめしています。

フィラリア症の予防法

フィラリア症の予防は、基本的には「蚊が出始めた月の翌月」から「蚊の出なくなった月の翌月」まで、月に1回予防薬を投与します。したがって温暖な地域と寒冷な地域では投薬期間が多少異なりますが、愛知県では例年、おおむね5月から12月が投薬期間となっています。
ワンちゃんではジャーキータイプの予防薬が人気で、月に1回、おやつ代わりに与えていらっしゃるご家庭も多いです。しかし、なかなか食べてくれない場合や、月1回の投薬だと忘れてしまうという場合には、1年を通して効果を示す注射薬も取り扱っておりますので、ご相談ください。
猫ちゃんでは背中につけるスポットオンの製剤で月1回投薬するのが一般的です。

ノミ・マダニ

ノミやマダニは、主に野外でペットの身体に付着し、吸血する節足動物です(ちなみにノミは昆虫の仲間、ダニはクモの仲間です)。これらは犬や猫だけでなく、人に対しても吸血を行います。さらに重要なことは、吸血による直接的な害だけでなく、これらの虫が「感染症を媒介する」という点です。
中には、感染したらペットだけでなく人も命を落とす可能性がある危険な感染症もあるため、屋外に出るワンちゃん、猫ちゃんは、ノミ・マダニの駆虫を必ず行いましょう。

ノミの注意点

ノミで注意しなければいけない点は、動物の身体に付着したノミを一度屋内に持ち込んでしまうと、暖かい家の中で卵を産み、季節を問わずにどんどん増えていってしまう点です。一般的には野外でノミが活動する暖かい時期に薬を投与すれば寄生は予防できますが、自宅にすでに持ち込まれてしまった場合には、年間を通して投薬が必要になります。

ノミが媒介する代表的な感染症 
瓜実条虫

条虫(いわゆるサナダムシ)と呼ばれる寄生虫の一種です。ノミがこの寄生虫の卵を食べると、ノミの体内で猫ちゃんやワンちゃんに感染できる形態まで寄生虫が発育します。猫ちゃんやワンちゃんが毛繕い等でノミを食べてしまうことで感染します。比較的よく見られる寄生虫です。動物病院での直接的な糞便検査では見つかりにくく、ご家族がペットの糞便の表面で動く白い虫(の一部)を発見されることで判明するケースも多いです(見つけたら現物を動物病院へお持ちいただくか、写真や動画に撮って獣医師にお見せください)。人も感染する可能性があり、特に乳幼児では注意が必要です。治療には駆虫薬の処方が必要です。

マダニの注意点

マダニはノミに比べると運動能力が低いのですが、種によってはメスのみで産卵し増殖するため、狭い草むらの中でも大量のダニに寄生されるリスクがあります。
また特徴として、マダニは一度皮膚を刺して吸血を始めると1週間ほどかけて大量に吸血します。皮膚に顎体部と呼ばれる部位を突き刺し、抜けないよう分泌物で固めた上で吸血するため、力づくで取ろうとするとダニの身体の一部が皮膚の中に残ってしまいます。ペットの皮膚に食い付いているダニを見つけたら、獣医師にご相談ください。

マダニが媒介する代表的な感染症 
SFTS
(重症熱性血小板減少症候群)

マダニの吸血により感染するウイルス性疾患です。一方で、マダニから感染して、SFTSを発症した動物の体液によっても感染します。
ほぼ全ての哺乳類が感染すると言われており、人において、国内での致死率が約27%という非常に危険な感染症です。日本では2013年に最初の患者が報告され、西日本を中心に年々報告されている地域が広がっています。猫ちゃんやワンちゃんでの感染も多数見つかっています。特に猫ちゃんでは感受性が高く、致死率は約60%、多くの症例が発症して1週間以内に死亡すると言われています。犬や猫が発症し、ご家族や診療した獣医師・動物看護師がSFTSを発症した例もあり、ペットのマダニ対策の重要性が強く指摘されています。(参考:国立感染症研究所ホームページ)

ノミ・マダニの駆虫薬

前述の通り、ノミは家の中に持ち込まれてしまうと通年の対策が必要ですが、屋外のノミ・マダニの対策としては3〜4月にスタートし、11〜12月頃まで実施するのが一般的です(期間には地域差があります)。
わんちゃんではジャーキータイプの薬、特にフィラリア症の予防薬と一緒になっているものが人気で、月に1回投薬していただくことで対策できます。また、月に1回、背中につけるスポットオン製剤もございます。最近では、3ヶ月に1回の投薬で良い薬など、新しい製品も出てきており、詳しくはご相談ください。
猫ちゃんでは背中につけるスポットオンの製剤で月1回投薬するのが一般的です。