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耳がかゆくなる季節

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こんにちは。マツモト動物クリニックの獣医師、松本裕子です。

こちらのブログでは、季節ごとに増えるワンちゃん猫ちゃんの病気について、ご紹介していきます。

 

<注意>ブログ記事には私見を含みます。現在通院中のワンちゃん猫ちゃんの治療に関しましては、かかりつけの動物病院の先生の指示に従ってください。内容に関しまして、ご意見・ご質問はお問い合わせフォームからどうぞ。

 

さて、梅雨も明け、夏です。豊橋ではセミがよく鳴いてます。写真はクリニックの前で咲いたヒマワリとケイトウです。かわいい!

ということで(?)、今回は、夏に悪化しやすい!外耳炎のお話です。

 

〜外耳炎の話〜

☆ご自宅のワンちゃん猫ちゃんに、こんな症状、ありませんか?

耳や耳の周囲をよく掻く、耳の周囲に脱毛している所がある

・耳垢(耳アカ)が多い、耳が汚い、耳が臭い

・耳から膿のような液体(耳だれ)が出る

頭をよく振る

・片耳が下がって頭を傾けている

・耳のあたりを触ると激しく怒る、痛がる

どれかひとつでも当てはまる時は、外耳炎を起こしている可能性がありますので、お近くの動物病院へご相談ください。

 

1)  どんな病気?

「耳」と一口に言っても、解剖学的には外耳、中耳、内耳に分かれます。「外耳」と呼ばれるのは、耳介から鼓膜の外側までの領域です(下図参照)。一般に「外耳で起きている炎症」を「外耳炎」と呼びます。外耳は体表と同じく皮膚で裏打ちされていて、多くの場合「外耳炎」≒「耳で起きている皮膚炎」と考えられます。

犬の耳の模式図

「外耳炎」はあくまで「状態」を示す言葉で、原因は様々。ワンちゃん猫ちゃんの外耳炎の原因としては、細菌、真菌(カビの仲間)、寄生虫、アレルギー、異物、腫瘍やポリープなどが挙げられます。最も多いのは細菌や真菌の感染を伴う外耳炎です。なので、蒸れやすい夏の時期に悪化しやすいのです。

炎症が起きるとかゆみ(時には痛み)が生じます。また刺激によって耳道での皮脂の分泌が増え、耳が汚れて炎症が更に悪化します。

 

ワンちゃんでは非常に一般的な「よくある」病気です。しかし、「犬の耳が臭いのは普通でしょ?」と、病気だと認識されず放置されていることも多くあります。特に耳が垂れている犬種では、「久しぶりに耳をひっくり返したら悪臭とベタベタで酷いことになっていた…」なんて事も。日頃からワンちゃんの頭を撫でるだけでなく、耳にも触れて少し覗いてみましょう。早期発見の第一歩です。

 

猫ちゃんの外耳炎はワンちゃんほど多くはありませんが、子猫ではダニ(ミミヒゼンダニOtdectes cynotis)が寄生して外耳炎を起こしている事はよくあります。顕微鏡や拡大鏡でないと見つけられない小さなダニです。他の猫や犬にも感染します。黒い耳垢がいっぱい出る時は要注意!また、高齢の猫ちゃんでは、腫瘍やポリープが耳道を閉塞して外耳炎を起こしている事もあります。

 

2) 診断・治療

外耳炎は、視診(目で見て診察すること)により診断することが多いです。「耳鏡」という道具を使って耳の穴(外耳孔)を覗きます。人では外耳道がまっすぐなのに対し、動物では途中で屈曲しているため、奥まで覗くのは結構大変です。

 

耳垢を綿棒で採取して、顕微鏡で観察することもあります。

耳垢顕微鏡写真_マラセチア

上の写真は犬の耳垢の顕微鏡写真です。マラセチアは真菌の仲間で、普段から耳道に定着している常在菌です。過剰増殖すると茶色いベタベタした耳垢が増え、外耳炎の原因になります。

 

海外では、慢性外耳炎の診断のためにCT検査をルーチンで行う施設もあり、最近では国内でも一部の高度診療施設では実施されているようです。まだ一般的な検査とは言い難いですが、腫瘍を疑う場合や、中耳炎の併発を疑う場合には、CT撮影が必要となる場合があります。

 

3) 治療って何をするの?

・ミミダニが原因の外耳炎

→ 駆虫薬の投与です。2週間程度の期間をあけて2回以上、投薬します。ダニの卵には駆虫薬は効きません。1回だけで終わらせると、卵から孵化したダニがいずれ再び増殖してくると予想されます。再びダニが増えてきていないかチェックする必要もありますので、自己判断で通院をやめないようにしましょう。

 

・細菌や真菌の感染が起きているとき

→ 経口の抗菌薬や抗真菌薬では、耳道で増えた細菌や真菌にはなかなか効きづらいため、オススメは、耳道洗浄と点耳薬です。いやいや…誰だって耳に液体流し込まれたら嫌ですよね…。大抵、嫌がられます。でもこれが一番効くんだな〜〜(心の声)。本人が怒ってしまう等で処置が難しい場合は、経口薬を飲んでもらって少し症状がおさまってから、点耳薬に切り替えたりもします。

重度の外耳炎で、鼓膜が失われていたり、耳道の壁が腫れ上がって狭くなっている場合は、耳道洗浄や点耳を避けるケースがあります。

 

・アレルギー

→ アレルギー性皮膚炎の症状の一つとして外耳炎が生じる場合があります。アレルギー性皮膚炎の話をすると長くなるので、ここではサラッと書きます。アレルギー(免疫の過剰反応)によって、外耳道の皮膚で炎症が生じる事があります。環境中のアレルゲン(ハウスダスト、花粉、カビetc.)によるものだけでなく、食物アレルギーでも耳がかゆくなります。

皮膚のバリア機能が低下しているため、二次的に細菌や真菌も増えてしまいます。なので、上記の「菌を減らすための治療」と、「アレルギーによる炎症を抑えるための治療」を並行して行う必要があります。食物アレルギーが疑わしい場合は、食事療法を実施します。

 

・何度も外耳炎になる、良くならない

→ 外耳炎は再発しやすい病気です。そもそも外耳炎になりやすい素因(耳が垂れて蒸れやすい、皮膚炎を起こしやすい、アレルギー体質 etc. )を持っている動物で生じることが多いからです。

そういった動物では、日頃のケア(定期的な耳道洗浄など)で出来るだけ健常な状態を維持してあげること、悪くなってきたら早めに動物病院で診察を受けることが重要です。(ひどくなってからだと、本人も辛いし治療に時間もお金もかかる!)

再発を繰り返す場合に、アレルギーや内分泌疾患(ホルモンの病気)が隠れていないか、腫瘍やポリープが耳道に出来ていないかなどを考えます。

 

4) ほっといたらどうなるの?

長期間、重度の外耳炎を繰り返していると、外耳道の壁が腫れて分厚くなり、耳道そのものが狭く塞がってしまう場合があります。そうなると内科的な処置では治療が困難になり、手術によって外耳道切除を行うケースもあります。そういうケースでは、大抵すでに耳は聞こえなくなっています。

 

外耳の炎症が、奥の中耳に波及すると「中耳炎」になります。

人では「中耳炎」といえば鼻の奥で生じた感染が中耳に波及して生じることが多いのですが、少なくとも犬の中耳炎は、外耳炎が先行して発症することがほとんどだと言われています。慢性の外耳炎では鼓膜が破け、耳垢や膿が中耳に入り、中耳炎におちいる場合があります。鼓膜が無くなっているので、もちろん耳は聞こえません。

 

さらに内耳の前庭まで炎症が波及すると、平衡感覚に異常をきたして「斜頸(頭が傾いたまま直らない状態)」になることもあります。

 

5) さいごに

外耳炎を治療したワンちゃんの飼い主さんから「外耳炎が治ったら、性格が穏やかになった!」と言って頂いたことがあります。ひどい外耳炎って、それだけ痛くてかゆくて、つらいんだと思います。「たかが外耳炎、されど外耳炎」。放って置くのはやめましょう!

 

ということで、今回は外耳炎の話でした。本当は外耳炎に関連して「耳血腫」にも触れたかったのですが、そちらはまた改めてブログ記事にしようと思います。

あと耳道洗浄については、不適切に行うと外耳炎を悪化させる可能性があるので、ご自宅でトライされたい方は、ぜひ動物病院でご相談ください。