熱中症の話
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お久しぶりです。ブログ更新が途絶えてしばらく経ってしまいました。
お盆を越えてやっと暑さも一息ついてきたかな、という気候になってきましたが、豊橋ではまだまだ熱中症警戒アラートが毎日のように発表されています。
ということで、今回はワンちゃん猫ちゃんの熱中症について書いていこうと思います。
名前を知らない人はいないと思いますが、意外と知らないことも多い、怖い病気です。
〜熱中症の話〜
こんな症状があったら注意!
<初期症状>
・ハァハァと口を開けて激しく呼吸している
・よだれが大量に出ている
・歯茎や舌・結膜(眼の白目の部分)が、いつも以上に充血、うっ血している
・心拍が速い(頻脈)
<重篤化した場合>
・ぐったりと意識がない
・下痢・嘔吐
・ふるえている
・意識が消失する
・けいれん発作
・呼吸困難
これらの症状は全てが同時に現れるわけではなく、出やすい症状や程度の差によって一見して熱中症とわかりにくい場合もあります。
1)どんな病気?
「熱中症」と名前は知っていても、実際に体の中ではどんなことが起きているのでしょう。
人でも動物でも、熱中症は「高体温と脱水によって全身状態が悪化した状態」と考えて間違いはありません。しかし、熱中症の初期段階で見られる疲労感や筋肉のけいれんは、動物では気付かれないことがほとんどです。ぐったりとしているときには、すでに体温が40℃を超えていたり、熱中症の中でもより重篤な「熱射病」に至っている可能性が高いです。
熱射病の時、体の中は血液循環不良によるショック状態になっています。熱射病と診断された犬の死亡率は50%程度、死亡例の多くは24時間以内に亡くなっていると報告されています(Bruchim et al. 2006)。
動物の体は、周囲の温度が高いと、正常な反応として体温を下げようとします。呼吸数を増やしたり、抹消の血管を広げて放熱し、心臓は血液の拍出量を増やします。これらの反応で暑さをしのいで、涼しい場所に避難できれば良いのですが、この状態がずっと続くと体がバテてしまいます。
また、放熱しているはずなのに体温が上がり続けた場合はどうなるでしょう。免疫や炎症にかかわるサイトカインという物質が体内で放出されたり、消化管内の細菌が作る毒素などによって、身体の深部、内臓の血管まで拡張します。身体中の血管が拡張した結果、血液循環不良によるショック状態に陥ってしまいます。こうなってしまうと、全身の臓器が正常に働けません(多臓器不全)。同時に、低血糖・横紋筋融解症(筋肉が破壊されて赤褐色の尿を出します)・血液凝固異常によるDIC(播種性血管内凝固症候群)・ARDS(急性呼吸窮迫症候群)などの複数の重篤な病態が合わせて生じてきます。
なんだか難しい話になってしまいましたが、重度の熱中症の時には、全身で生命の危険がある病態が同時多発的に起きてしまうのです。
熱中症は発生の仕方で2つのタイプに分類されます。
・労作性熱中症:屋外炎天下など暑い環境で身体を動かして発症する熱中症。若齢〜中年齢に多く、30分〜数時間程度で急激に発症します。
・非労作性熱中症:暑い部屋などで何日も過ごす中で、徐々に悪化する熱中症。高齢・持病がある場合に多いです。
前者の労作性熱中症は、48時間を越えて生存できれば予後は比較的良好と言われています。一方で、後者の非労作性熱中症は予後不良…つまりこの病気の結果、亡くなってしまう可能性がかなり高いとされています。
また後者では、屋内で過ごしていて体調が悪化し、病院に来た時には体温が下がっていた場合に、熱中症の診断が付きづらいこともあります。暑い時期に「元気がない・食欲がない」「ふらつく」「下痢・嘔吐」といった症状があった場合には、「熱中症かも?」と疑う必要があります。
2)診断
問診によって、熱中症を起こす状況があったのか聴取した上で、身体検査や症状から診断します。40℃を超える高体温になっていれば確定的ですが、すでに体が冷えていた場合には熱中症であっても体温が上昇しているとは限りません。
血液検査やレントゲン、エコー検査など全身の状態を調べる必要があります。
3)治療
高体温の場合は、身体を冷やす必要があります。しかし皮膚温が冷えすぎると循環を悪化させる可能性があるため、水をかける、水で濡らしたタオルで包む、涼しい風を送るなどの処置で身体を冷やします。
同時に点滴をして、循環不良を改善する必要があります。電解質(ミネラル)のバランスに異常がある場合には、点滴によって補正します。
様々な症状が同時に生じるため、低血糖であればブドウ糖の投与、低血圧や心拍出量の低下があれば心臓薬を投与、呼吸状態が悪い場合には酸素吸入、血液凝固異常があれば抗凝固剤、敗血症を防ぐために抗菌薬、急性腎不全で尿が作れない場合に利尿薬…と全身状態に合わせて様々な治療を行います。
しかし適切な治療がなされた場合であっても、重度の熱中症の致死率は高いです。
4)予防と対策
まず、自宅のワンちゃん猫ちゃんが熱中症になりやすい危険因子をどれだけ抱えているのか、しっかり認識しましょう。
ワンちゃんでは、鼻の短い短頭種(フレンチブルドッグやパグ、チワワなど)は熱中症を起こしやすく、重症化しやすいです。
また肥満、高齢、持病がある場合には、短時間の暑熱ストレスやそこまで気温が高くない状況でも体調を崩しやすくなります。
環境面の因子としては、気温だけでなく湿度も重要です。湿度が高いと放熱がしづらくなり、熱中症のリスクが高まります。
また、エアコンの設定温度だけでは、実際の部屋の気温はわかりません。ペットがよくいる場所の近くに気温計を設置することをおすすめします。
ワンちゃんのお散歩では、人よりも地面に近い場所を歩くため、より高温に晒されます。熱したアスファルトやマンホールで火傷を負うこともあります。暑熱環境での運動は、30分以内でも熱中症に陥る可能性があります。本人の体調に合わせて、暑い日は無理をしないことが重要です。
猫ちゃんの場合、エアコンの音が嫌いで自分から暑い部屋へ行ってしまったり、家族が知らない間に暑い場所に入り込んで閉じ込められてしまうケースもあります。自分で居場所を選んでいる場合でも、人が長時間耐えられないような暑い空間では、猫ちゃんも体調を崩す可能性が高いです。高齢の猫ちゃんは、日向ぼっこしている間に脱水して身動きが取れなくなってしまうこともあります。「猫まかせ」にし過ぎないようにしましょう。
毎年暑い時期には、熱中症や熱中症を疑う体調不良のワンちゃん猫ちゃんが何頭か来院します。高齢だったり持病がある場合、「こんな気温で?」「例年、平気だったのに」という状況で調子を崩してしまうケースも多いです。
晩夏の季節となりましたが、油断せず熱中症への対策は続けていっていただきたいと思います。





